紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    2.有害生物(害虫)管理にあたって守るべき事柄

     5) 農業と外来生物法とのかかわり

 外来生物法が対象とするもの

 外来生物法は、正式名を「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」という。その目的、外来生物が国内に導入され、野外に逃げ出して生態系等に被害が生じることを防止することによって、わが国における生物多様性の確保、人の生命や身体への危害の防止、農林水産業の健全な発展に寄与し、国民生活の安定向上に資するとされている。

 外来生物法では、日頃聞き慣れない専門用語が使われているが、法律にその定義が書かれている。特定外来生物とは、海外からわが国に導入されることにより、わが国の在来種と性質が異なるために、生態系、人の生命もしくは身体、農林水産業に被害を及ぼし、または、及ぼすおそれがある生物であり、国が指定したものである。法律を実施する上で重要な基本方針を述べた「特定外来生物被害防止基本方針」では、特定外来生物の選定の前提として、明治以降にわが国に導入された外来生物であること、しかし、菌類、細菌類、ウイルス等の微生物は当分の間対象としないとされている。外来生物の導入という意味には二つあり、利用目的を持って意図的人為的に導入されたもの、および輸入物品等に付着したりして非意図的に導入されたものが含まれる。

 なお、農産物に付着・寄生した病害虫がわが国に侵入するのを防止するために、植物防疫法により港湾や空港で植物検疫が行われている。したがって、外来生物法では、植物防疫法の対象となる外来生物(病害虫)は特定外来生物の選定の対象としていない。

 特定外来生物の指定

 特定外来生物の指定は、外来生物による生態系等の被害を防止するために、下記の事項に照らし、特に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものを原則として種を単位として行われるが、必要に応じて属、科などの生物分類群を単位として行われることもある。

生態系に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物とは、次のような原因により在来生物の種の存続 、又はわが国の生態系に重大な被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものである。
  1)在来生物を捕食する。
  2)生息地や生育地、または餌などで在来生物と競合し、在来生物を駆逐する。
  3)植生の破壊や変質等を起こすことによって生態系基盤を損壊する。
  4)交雑による遺伝的かく乱等を起こす。
 
人の生命や身体に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物とは、人に重度の障害をもたらす危険のある毒を有するものや、重傷を負わせる可能性のあるものである。

ウ.農林水産業に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物とは、単に、わが国の農林水産物に対する食性があるというだけではなく、農林水産物の食害等により、農林水産業に重大な被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものである。

 農業と関係する特定外来生物の種類

 特定外来生物に指定された生物のうち、農業に関係する特定外来生物第9表に示した。農業上の利用のために導入された特定外来生物には、トマトなどの授粉に利用されるセイヨウオオマルハナバチがあり、農作物に被害を及ぼすものには、アライグマ、ヌートリアなどのほ乳類10種がある(2007年10月15日現在)。これらのほ乳類は、ペット、動物園、毛皮などの用途で人為的に導入され、その後、野外に逃げ出だし、あるいは放棄されて、農業被害等を及ぼすようになったものである。 

 特定外来生物の防除

 外来生物法によって、生態系や農業等に被害を及ぼす外来生物が国内に導入されないように法整備がなされ、特定外来生物の輸入、飼養、譲渡、放てきが原則禁止され、港湾や空港での監視システムが作られた。しかし、法律施行前に導入された外来生物が既に野外に定着・繁殖し、被害を及ぼしている場合がある。

 外来生物法では、特定外来生物が生態系や農業に被害を及ぼしているか、そのおそれがあり、被害の発生を防止する必要がある時には、国は都道府県の意見を聞いて「鳥獣の保護と狩猟の適正化に関する法律」の適用除外として防除を行うことができるとされている。また、地方公共団体は環境大臣の確認を得て特定外来生物の防除を行うことができる。さらに、国と地方公共団体以外の者が、特定外来生物の防除を行う場合には、防除を適正かつ確実に実施でき、公示された事項に適合しているとの認定を環境大臣から受ける必要がある。

 実際に、外来生物法の適用を受けて防除が行われている特定外来生物としては、奄美大島などでのジャワマングース、沖縄県石垣島等でのオオヒキガエルなどの例がある。

 トマトなどの授粉にセイヨウオオマルハナバチを使う場合には環境大臣の許可を受けなくてはならない

 セイヨウオオマルハナバチを特定外来生物に指定するか否かについて、環境省に設置された専門委員会で活発な議論がたたかわされたが、平成16年9月1日から適用されることになった。これに伴って、特例として特定外来生物の輸入、飼養を行うということで、環境大臣から飼養許可を得るとともに、施設外にハチが逃亡しないようにネットを張ることが義務づけられた。これらの義務に違反した場合には、百万円以下の罰金や1年以下の懲役などの罰則が課せられるので十分に注意する必要がある。使用許可の申請手続きは環境省ホームページに掲載されている。

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